忙しい日々の仕事に追われ、終わるのが深夜近くにまで及んだ日は、とあるホテルのバーに通う。カウンターに座り、お気に入りのカクテルで喉を潤しながら仕事の疲れでたまった心の垢を取るのだ。グラスの向こう側に揺れる街の灯りを眺めながら、明日への鋭気を養うのがお気に入りの日課なのだ。バーのカウンターというのは実に不思議なもので、時として予想もしないハプニングをもたらしてくれることもある。一つ空けた並びの席に座ってきたのがみおだった。お堅いOL風のスーツに身を固め、寂しげに一人お酒を飲む姿からは彼女の仕事の大変さ、人付き合いの気苦労等が一瞬にして垣間見えるのだ。時折ため息まじりに夜景を見つめるその仕草にためらいながらも、勇気を出して「よかったら一緒にどうですか?」そう話しかけてみることにした。「えっ…。は、はい。」一瞬怪訝そうな顔をした彼女であったが、本当は胸の痛みを誰かに聞いて欲しかったのか、その表情はすぐに柔らかさを増していったのだった…。あの日から早いもので、もう半年の月日が流れようとしている。あの夜の出会いがなければ今日のこのときめく時間もなかったのだろうと思うと、時折心が切なくすらなるのだ。限られた時間の中で神様が与えてくれた幸運に感謝すると共に、いまを精一杯生きようではないか…。
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